路線関係(碓氷峠)
信越本線の碓氷峠は、明治からの長い歴史を持つ路線で、それは急勾配を克服するための歴史でもあります。
開通から70年間は、ラックレールによるアプト式でした。粘着運転は1963年から始まりますが、34年後の1997年には新幹線の開通により路線廃止となり、アプト式の半分の歴史でピリオドを打ちました。
旧型国電に関連する歴史は、粘着運転の1963年から信越線新性能化の1978年までの15年間に過ぎませんが、ここでは、碓氷峠全体の歴史を振り返ります。
碓氷峠の区間
信越本線の横川(群馬県)と軽井沢(長野県)の間に碓氷峠はあります。
神奈川県から長野県中央部に至るまで勾配が連続する中央本線と比較すると、信越本線は碓氷峠さえクリアすれば、あとは比較的平坦な地形を走るという相違点があります。
信越本線横川−軽井沢間の生い立ち
アプト式区間開通(1893年)
画像:絵葉書
碓氷峠の横川−軽井沢間は、官設鉄道(国鉄)として1893(明治26)年に開通しました。前後の区間は1885〜88年に開通済みでしたが、急勾配を克服するため、この区間の開通は大きく遅れました。
線路にラックレールを敷き、機関車同軸のピニオンと噛み合わせるアプト式を採用しました。
当初は蒸気機関車による運転で、8km/hでこの区間を75分かけて運転されました。写真の絵葉書では、蒸気が手前に流れていますので、奥方向に勾配を登る最後部の蒸気機関車を写したもの。
600V電化(1912年)
画像:絵葉書
蒸気機関車による長大トンネルの勾配区間は、煙による乗務員の健康被害が大きいため、1912(明治45)年に電化されました。狭小のトンネルが多いため、600Vの直流電化で、集電方式は第三軌条方式でした。
ドイツAEG社から輸入された国鉄電気機関車の第1号である10000形(後のEC40形)が牽引する客車列車。
粘着運転への切り替え前夜
画像:所蔵写真(軽井沢−横川 1963.9.19)
1933(昭和8)年から国産の電気機関車ED42が投入され、アプト式廃止まで走りました。
1963(昭和38)年7月15日に粘着運転の新線が開通しますが、9月28日まで旧線も併用されました。
写真は下り勾配を行く混合列車。機関車次位からしばらくは貨車が連結されていますが、針葉樹の先に客車が見えます。
ED42は先頭から本務機、第1補機、第2補機、そして後ろの1両が第3補機と呼ばれるそうです。(文献J9608-1)
急行「志賀」キハ57
画像:所蔵写真(軽井沢−横川 1963.9.19)
1961(昭和36)年に急行形気動車キハ57形が誕生します。コイルばね台車では床下機器ががラックレールと接触する可能性があるため、空気バネを採用したこの区間専用の新車で、上野〜長野間の急行「志賀」に使用されました。
しかし、2年後には電化と粘着運転開始により、短期間で職を追われました。
写真は、ED42×3両とED42×1両に前後を挟まれて勾配を下るキハ57、キロ27の7両編成。
高崎−横川間電化(準急「軽井沢」80系)
画像:永井重道(高崎駅 1962.7.15)(文献P6209-1)
1962(昭和37)年に高崎〜横川間が電化され、碓氷峠より一足早く電車運転が開始されました。これはまた碓氷峠の電化50周年の記念イヤーでもありました。
電化祝賀列車は80系による上野−軽井沢間の準急「軽井沢1号」でした。軽井沢を名乗りますが、まだ碓氷峠はアプト式の時期であり、この列車は横川でバスに乗り換えるという輸送方法でした。
1500V電化、粘着運転開始(1963年)
画像:所蔵写真(横川−軽井沢 1977.8.7)
1963年に碓氷峠の新線が開通し、1,500V電化の架線集電、粘着運転が開始されました。これにより、上野から長野まで電車による直通運転が可能になりました。
EF63形電気機関車2両が麓側に連結され、軽井沢方面の上り勾配は推進運転、横川方面の下り勾配は抑速ブレーキによる牽引運転を行います。
表7-4-1 開業と電化時期(信越本線)
| 区間 | 開業 | 電化 |
|---|---|---|
| 高崎−横川 | 1885(明治18) | 1962(昭和37) |
| 横川−軽井沢(碓氷峠) | 1893(明治26) | 1912(明治45)(600V) 1963(昭和38)(1,500V) |
| 軽井沢−長野 | 1888(明治21) | 1963(昭和38) |
アプト式とは
アプト式の展示軌条
撮影:碓氷峠鉄道文化むら(2025.6.22)
当時の66.7パーミルの軌条を復元したものです。1882年にスイス人のカール・ローマン・アプトが特許を取得したことから、アプト式と呼ばれます。
アプト式ラックレール
撮影:横川駅(2025.6.22)
横川駅構内にもアプト式ラックレールが展示されています。
ラックレール3枚の歯をずらして並列に敷設して、機関車の駆動用歯車と噛み合わせて、機関車を前進させます。
主な参考文献
- P6209-1 永井重道(1962)「信越線高崎−横川間電化現地ルポ」(鉄道ピクトリアルNo.136)
- P8406-1 沢柳健一(1984)「碓氷峠(横軽間)のうつりかわり」(鉄道ピクトリアルNo.433)
- J9608-1 原田勝正(1996)「横軽の伝説 アプト式時代を偲ぶ1893〜1963」(鉄道ジャーナルNo.358)