もし「紀行文を書いてよ」と頼まれたら、どんな紀行文を書けばいいんだろうか。実際に頼まれたわけではないのだけれど、ちょっと心配になってしまったので試しに書いてみました。
(第12回)納豆ぐらい置いときなさいよ、と叫ぶおっさん
バブル経済がはじけたと言われる1990年代中盤以降、世の中には、安普請というか、簡素な作りのものが急増した時期がある。別に悪い意味ではない。例えば新幹線。それまでの新幹線駅というのは、3階建くらいの高架線を走り、ホーム全長を覆った屋根は遠くから見ると要塞のような大きさだった。しかし、1997年に開業した長野新幹線とか、2002年に開業した東北新幹線八戸駅とかは、新幹線の駅なのにほぼ地平にある。佐久平駅などは、交差する単線の小海線の方を高架線にして、長野新幹線が下をくぐる形になっている。単線のローカル線を高架線にした方が安く仕上がるからだ。

夕食の場合は、1杯飲んでからチェックインする人も多いし、ホテル周辺の飲食店も営業しているから、宿泊施設で提供していなくても不便は感じない。しかし、朝食は、ビジネスでも観光でも、チェックアウトの後に近くで探すのには苦労する場合がある。ホテルで提供してくれるというのは、有難いことなのだ。
このタイプのビジネスモデルは、瞬く間に広がり、日本各地に「○○イン」というような名前のビジネスホテルが乱立するようになった。
きっかけとなった東横インの無料朝食は、おにぎりとみそ汁とか、パンとコーヒーとか簡素なものだったが、追随する各社は、差別化のため徐々に品目を増やすようになった。パンやおにぎりでなく、炊き立てごはんを提供することが当たり前になった。おかずは業務用の食材を利用しているようで、一口サイズの焼き魚にソーセージ、ベーコン、スクランブルエッグなど、どこでも同じようなものが並ぶ。それでも、品数が多くなるほど、コストは上がるし、廃棄ロスも多くなる。無料朝食とはいうものの、実際は宿泊代に含まれているんじゃないかと思うと、素直には喜べない。
最近では、無料夕食を提供するホテルさえ現れた。三河安城駅のABホテルでは、日替わりメニューの夕食を提供する。長期宿泊している人にとって、無料夕食は重宝されているようだった。今後こういうところも増えるのだろうか。
しかし、本来、リーズナブルに宿泊するのが目的なのだから、無料朝食は最低限のものでいいんじゃないかと思う。京王プレッソインは、焼き立てパンと飲み物に絞られているが、その朝ホテルで焼いたパンは、充分おいしい。

そんな朝食を楽しんでいたら、いきなり、「納豆ぐらい用意しておきなさいよ」と捨て台詞を残して出て行く厚顔の中年オヤジがいた。
日本の朝食には納豆が欠かせないという常識にとらわれ、そういう個人的な好みを押し付けようとするヘボオヤジだ。それに「用意しておきなさいよ」というのも、世の中の人がみんな自分の部下だと思っているヘボ上司に多い言い方だ。
そんなヘボオヤジは、今日の夜には、納豆の壺の中におぼれて苦しむ夢でも見て、うなされちゃえばいいのに、と思いながら、みんなおいしそうに朝食を食べているのだった。
(画像はほぼイメージで、本文とは関係ないものがほとんどです)
(つづく)