にっぽん奇行


もし「紀行文を書いてよ」と頼まれたら、どんな紀行文を書けばいいんだろうか。実際に頼まれたわけではないのだけれど、ちょっと心配になってしまったので試しに書いてみました。

(第10回)温泉街で上司をまく方法

日本には各地に温泉があって、大分県や群馬県のように温泉を前面に打ち出している地域も多い。熱海とか白浜とか城崎など、古くからの温泉地は、昔は新婚旅行のメッカだったらしいが、そんな時代のことはよく分からない。
日本人が温泉好きなのは、温泉地が多いからだけでなく、元々風呂好きだからだと思う。私はといえば、子供の頃は熱いお湯に長時間浸かっていたが、大人になるに従い、短時間で済ますようになった。風呂桶でぼんやりしている時間に、ほかのことをしていた方が楽しいと思うようになったからだ。
にっぽん奇行 そんなわけなので、温泉にも温泉旅行にも興味はない。
多くの人はテレビとか雑誌とかで温泉が出てくると、「温泉行きてぇ〜」とか言い、その言葉には全員が同意しなければならない雰囲気がある。日本人には、温泉とプロ野球とサザエさんの話題が出たら、みんな楽しそうに会話に加わらなければいけないという、暗黙のルールが存在するのだ。なので、私も仕方なく曖昧に頷いたりしておくけれど、本当は行きたくない。
そうは言うものの、社会人として常識的に生きようとすると、団体での温泉旅行に参加せざるを得ないことも多い。こちらが相手をもてなす立場に立たされることさえある。
結局、私も山形県の温海温泉とか、岐阜の下呂温泉とか、鹿児島の指宿とか、有名どころの温泉宿は、それなりに経験してしまった。
温泉旅行で困るのは、夕食が必ず宴会であるという点。セクハラとかパワハラとかサケハラとかいう言葉がない時代から、そういうことの展覧会状態だった。旅先だし、浴衣を着てるし、酒が入っているので、自制心などかけらも残っていないのだ。
また、旅行会社が上得意様なのか、参加者に実力者がいたのか、旅館側のサプライズサービスで、いきなりレオタード姿のダンサーたちが舞台に現われたり、頼んでもいない芸者さんたちが宴席に割り込んで来たりすることもある。乾杯直後にこれをやられると、座は静まり返ってしまうし、盛り上がっているときには会話が遮断されてしまうし、邪魔でしかない。
宴会の次にやってくるのは、「外に行こう」という強い誘いだ。多くの温泉地で、バーやスナックはもちろん、ストリップとか射的とか、もっと怪しい店とかがあって、宴会よりもそっちが楽しみで来ている人もいる。
部屋に戻ろうとしたり、聞こえないフリをしていたりすると、すぐに見つかってしまう。強引に腕を引っ張られ、「仕事では、言うこと聞けとかって、言ったことないだろ〜」とか「幹事じゃないけど率先して行動しろよ」とか意味不明の命令が下される。
にっぽん奇行 そういう時は、「行きたくない」光線を出しているから目を付けられるのであって、逆に「行きたい」という態度を明確にしていれば、誰にも構われなくて済む。
大体みんなはロビーのあたりでぐずぐずしているから、「俺、先行ってるぞ」とか言いながら、さっさと宿から出て行ってしまえばいい。みんな酔っていてついてこられないので、先導したふりをして、そこらの路地をさっと曲がって姿を消してしまえばいいのだ。
みんなを巻いたら、30分くらいはラーメン屋などで時間をつぶし、宿のロビーでぐずぐずしている仲間が消えた頃を見計らって帰ればいい。後でいろいろ言われたら「先行って待ってたのに」と言い、相手が悪いことにすればいい。多くの場合、先導した者が正しくて、迷子になった者が悪いというのは常識なのだから。
この技は、街飲みでの二次会回避策にも使える。また、家族全員での外出に行きたくない時にも使える。
ただし、最近は携帯電話で探されてしまう恐れがある。なので、普段から、「あいつは酒を飲むと着信に気づかない」とか「あいつは旅行に行くと携帯を部屋に置きっぱなしにする」などの伏線を張っておくことをお勧めしたい。
(画像はほぼイメージで、本文とは関係ないものがほとんどです)

(つづく)


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80s岩手県のバス“その頃”